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ニューヨーク市のワークフェア政策
―就労「支援」プログラムが受給者にもたらす効果―

小林 勇人 2007
『福祉社会学研究』4: 144-64.


[目次]

■1 はじめに

■2 連邦政府の福祉改革とニューヨーク州の現金扶助

■3 ニューヨーク市のワークフェアプログラムの特徴

 3−1 「技能査定と就労斡旋(Skills Assessment and Placement: SAP)」プログラム
 3−2 「雇用サービス就労斡旋(Employment Services Placement: ESP)」プログラム
 3−3 就労経験プログラム(Work Experience Program: WEP)

■4 業績ベースの民間委託と情報管理システム

■5 まとめと課題


[注]

[文献]

[正誤表]

[言及・紹介]

[English]

[要旨]

 本稿は、ジュリアーニ政権のもとで全米の約1割に相当する公的扶助受給者数を大幅に削減したニューヨーク市のワークフェア政策の特徴を明らかにする.ジュリアーニは、連邦政府による1996年福祉改革法成立後に抜本的な福祉改革を実施し、組織再編成を行うとともに情報管理システムを導入し、業績ベースの民間委託契約を通して就労支援プログラムを展開した.同市の公的扶助制度の主要な就労促進プログラムには,「技能査定と就労斡旋(Skills Assessment and Placement: SAP)」,「雇用サービス就労斡旋(Employment Services Placement: ESP)」,「就労経験プログラム(Work Experience Program: WEP)」があった.SAPは公的扶助申請者に対して申請期間中に行われる就労斡旋プログラムであり,申請が受理されて受給者になると受給者にはESPによって就労斡旋プログラムが提供された.申請者や受給者はこれらのプログラムへの参加を義務付けられたが,民間団体の就労支援プログラムでも就労できない受給者は,WEPを通して市に雇われ就労義務を果たすことになった.SAPが申請者を就労へ迂回することで貧困者・失業者による福祉の申請を抑制した一方で,ESPでは雇用能力の高い受給者に有利なサービスが展開されたため,雇用能力の低い受給者はプログラムに滞留し,プログラムへの参加を拒めば公的扶助から排除されるに至った.

[キーワード] ワークフェア,ニューヨーク,業績ベースの民間委託,情報管理システム,ジュリアーニ



◇以下、一部抜粋:強調のための傍点は下線で、注への参照は★記号で代替した。
cf:pdf形式で全文がご覧になれます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jws2004/2007/4/2007_144/_pdf

■1 はじめに [全文]

 ニューヨーク市は,ジュリアーニ政権(1994年1月〜2001年12月)のもとで,公的扶助(後述するFAとSNAの両方を含む)受給者数を,ピーク時である1995年3月の1,160,593人から2001年12月の462,595人まで継続的に低下させ約70万人削減した.またその後も受給者数を2006年3月の402,281人までほぼ継続的に低下させ,ピーク時と比べて約65%減少させている (★1).この受給者数の大幅な削減をもたらしたのが,ワークフェア(workfare) あるいはウェルフェア・トゥー・ワーク(welfare-to-work)と呼ばれる政策である.アメリカにおいてワークフェアとは,福祉「依存」から脱却するために就労を通して「自立」することを目標として,雇用可能な公的扶助受給者に対して就労や就労に関連する活動を義務付ける政策を指す.

 1987年10月の「ブラックマンデー」と呼ばれる株価の大暴落以降,ニューヨーク市では深刻な経済不況が続いていた.そのため1994年に就任したジュリアーニ市長のもとで大幅な行政改革が行われたが,ワークフェア政策も連邦政府の福祉改革に先立って実施されていた.1996年の連邦政府の福祉改革後は抜本的な制度改革が可能となり,後期ジュリアーニ政権では様々なワークフェアプログラムが構想され2001年までに制度化された.

 ニューヨーク市の大幅な受給者数削減の要因として経済好況が指摘されることがある.しかし,同市の受給者数が1995年以降継続的に減少しているのに対して,失業率は1992年の11.0%から2001年5月の5.0%まで断続的に低下していたが,その後失業率は2003年1月にかけて9.0%まで上昇した(City of New York Human Resources Administration 2005).同市において2001年以後の不景気時にも受給者数が増加しなかった,あるいはさらに削減されたことに注目するならば,2001年に制度的に結実したジュリアーニ政権の福祉改革が受給者数削減の主要因であるといえる (★2).

 他方で1996年福祉改革法は時限立法であったため新設された制度(後述のTANF)は,2006年2月にブッシュ大統領の署名によって再承認されることになったが,その際ニューヨーク市の福祉改革プログラムがモデルになったともいわれている (★3).全米の約1割に相当していた受給者数の大幅な削減に成功し連邦の福祉改革にもインプリケーションを与えてきた同市の事例は,福祉「依存」から就労を通した「自立」への転換を図るアメリカのワークフェア政策を考察するための好事例といえよう.

 本稿は,まず第2章で,1996年の連邦政府による福祉改革とニューヨーク州の現金扶助について概観する.次に第3章で,同市の主なワークフェアプログラムの特徴について,第1節で,就労経験プログラムによる懲罰的機能,第2節で,申請者への就労促進プログラムによる申請抑制機能,第3節で,受給者への就労支援プログラムによる就労継続機能,を明らかにする.第4章では,ワークフェアプログラムの遂行を可能にした業績ベースの民間委託と情報管理システムについて分析する.以上を通して第5章で,同市のワークフェアプログラムが,貧困・失業者による公的扶助の申請を抑制するとともに,雇用可能であるが就労できない受給者に対しては,その大半をプログラムに滞留させる,あるいは公的扶助から排除する効果を持つことを明らかにする.

■2 連邦政府の福祉改革とニューヨーク州の現金扶助 [全文]

 アメリカでは1996年福祉改革法と呼ばれる「個人責任と就労機会調停法(Personal Responsibility and Work Opportunity Reconciliation Act)」により公的扶助制度が抜本的に変革されることになった.同法により「要扶養児童家族扶助(Aid to Families with Dependent Children: AFDC)」とAFDC受給者への職業訓練プログラムであった「就労機会基本技能訓練(Job Opportunities and Basic Skills: JOBS)」などが廃止され,「貧困家族への一時的扶助(Temporary Assistance for Needy Families: TANF)」が設立された (★4).AFDCはアメリカにおいて61年間存続した最も主要な福祉制度であり,扶養が必要な児童のいる貧困家族への現金扶助であった.AFDC受給者の大半は母子家族であったが,母子家族の増加とともに受給者が長期間福祉(AFDC)に依存することなどが問題視された.これに対してTANFでは,就労準備・就労・結婚を促し福祉依存を減らすことや,両親家庭の形成・維持を奨励することなどが目的とされた.

 TANFは,上述の目的に沿って福祉政策に対する州政府の裁量権を大幅に拡大するとともに包括的補助金(block grant)の支給を通して,現金扶助と就労支援プログラムを結合し,就労を前提とする一時的な救済措置として扶助を位置付け直すものであった.そのため受給期間が生涯で60ヶ月に制限されるとともに,受給者は受給後2年以内に就労することが義務付けられた.すなわち,AFDCのもとでの現金扶助は一定の要件さえ満たせば支給される権利(entitlement)であったが,TANFのもとで権利としての位置付けを失ったのである.

 包括的補助金は歴史上最も高い金額で補助金を固定するものであり,受給者の増減によってその金額が変わるわけではない.そのため受給者が減少した場合には予算が余るが,裁量権を拡大された州政府は余った予算を繰越してTANFの多岐にわたる目的に沿って柔軟に活用できるようになった.他方で州政府は,就労や就労関連の活動に受給者を参加させているかどうかを連邦政府から厳しく監査され,一定の参加基準を達成できれば追加の助成を受け,達成できなければ補助金を削減された.そのためTANF包括的補助金によって州政府には,受給者数を削減し,繰越額を就労促進・支援プログラムに活用する財政的インセンティブが与えられたのだった (★5).

 ニューヨーク州では1996年福祉改革法と連動して1997年「ニューヨーク州福祉改革法(The New York State Welfare Reform Act: WRA)」が成立し,「家族支援(Family Assistance: FA)」(同州でのTANFの名称)と「セーフティネット扶助プログラム(Safety Net Assistance Program: SNA)」が設置された.公的扶助にはTANF以外にも州と地方政府が共同で実施する「一般扶助(General Assistance: GA)」が存在するが (★6),SNAはGAの同州における名称である.SNAは単身者や児童を扶養しない夫婦などFAの受給資格のない者,あるいはFAの受給制限期間を超えた者に対して行われる現金扶助や諸サービスである.WRAによってFAに就労要請の強化や受給期間の制限が設けられる一方で,SNAにおいても就労要請が強化されるとともに現金扶助の受給期間が2年間に制限され,それを超過すると居住扶助などの現物給付のみに扶助は限定されることになった.同州ではFAやSNAの運用は地方政府が行うことになっており,FAの資金は包括的補助金によって連邦政府から一般的に50%が保証され,残りを州・地方政府で折半し,SNAの資金は州・地方政府によって自主財源で折半する (★7).

 一般的にGAは受給要件が厳格でありGAを実施していない州さえあるが,ニューヨーク州では州憲法の社会福祉に関する第17条第1節で,「貧困層への扶助,ケア,支援」を「公共の関心事」として州・地方政府にその提供を義務付けている.なかでもニューヨーク市ではアーバン・リベラリズムの伝統のもとで寛容な福祉政策が実施されてきた (★8).しかし,合衆国憲法とニューヨーク州憲法の双方において社会権の規定はなく,貧困層に関する政府の義務も抽象的な規定にとどまり法律として具現化されているわけではない(Pitcher 2002: 11).他方で福祉政策の実施は合衆国憲法第1条第8節第1項の「歳出権限」を主たる根拠とするが,裁判所は歳出に対して実質的にどのような条件を付与することも認めている(Mead1986: 170-2).そのため州・地方政府が補助金を得るためには連邦政府が課した就労要件を満たし、受給者もまたその就労要件に従わなければならなくなった.連邦政府の福祉改革によって大幅に拡大された裁量権のもとで,ジュリアーニ政権は受給者に対して受給要件として就労を義務付けるワークフェア政策を実施したのだった.

■3 ニューヨーク市のワークフェアプログラムの特徴 [一部]

 ジュリアーニは「社会契約は互恵的なもの」であり「あらゆる権利には義務が伴い,あらゆる恩恵には責任が伴う」として,「市が公的扶助受給者を支援するならば,市にはその見返りとして何かを依頼する権利がある」という信念を抱いていた.この信念に基づいて彼は市長就任直後に,就労可能な受給者にどの程度の労働を要請できるのかを調査し,「就労経験プログラム(Work Experience Program: WEP)」を実施したのだった(Giuliani 2002: 162=2003: 183).他方で後述するアメリカ・ワークス(America Works)の福祉観から影響を受けていた彼は,1994年に民間営利団体に対してワークフェアプログラムを委託することを許可し,教育・職業訓練プログラムから迅速な就労斡旋プログラムへと同市の公的扶助における基本戦略の転換を開始した(New York Times, Jan 20, 1994).

 ニューヨーク市のワークフェアプログラムの核にはWEPがある.WEPは市が受給者を雇用して受給者に就労義務を課すものであるが,連邦政府の福祉改革に先立って行われた.連邦政府の福祉改革後は,福祉事務所をジョブセンターに置き換えるなどの組織再編成が行われるなかで,公的扶助の申請者に対しても審査期間中に求職活動が義務付けられるようになった.他方でワークフェアプログラムの民間委託の整理統合が行われ2000年以降「技能査定と就労斡旋(Skills Assessment and Placement: SAP)」と「雇用サービス就労斡旋(Employment Services Placement: ESP)」のプログラムが展開されるようになった.SAPは公的扶助申請者に対して申請期間中行われる就労斡旋プログラムであり,申請が受理されて受給者になると受給者にはESPによって就労斡旋プログラムが提供される.受給者はこれらのプログラムへの参加を義務付けられるが,民間団体の就労促進・支援プログラムでも就労できない受給者は,WEPを通して市に雇われ就労義務を果たすことになった.本章では,SAP・ESP・WEPプログラムのそれぞれの特徴について明らかにする (★9).

■4 業績ベースの民間委託と情報管理システム

■5 まとめと課題 [全文]

 本稿は,連邦政府の福祉改革によって与えられた財政的インセンティブと地方政府の裁量権の拡大のもとで,福祉受給者数を大幅に削減したジュリアーニ政権下のワークフェアプログラムの特徴を明らかにした.ニューヨーク市は福祉事務所をジョブセンターに名称変更するなど組織再編成を行うとともに,情報管理システムの導入により民間委託を業績ベースの契約に変更することでワークフェアプログラムを展開したのであった.

 同市のワークフェアプログラムには,公的扶助申請者を対象とするSAP,受給者を対象とするESP,ESPを受けても就労できない受給者を対象とするWEPがあった.それぞれのプログラムの特徴は,申請者を就労に回避させることによるSAPの申請抑制機能,職に就いた後の再受給を防ぐためのESPによる就労継続機能,職に就けない受給者に積極的な求職活動を行わせるためのWEPによる懲罰的機能であった.すなわち,同市のワークフェアプログラムによって貧困層や失業者は公的扶助の申請を抑制される一方で,申請が承認され受給者になった者は業績ベースの民間委託によって雇用能力の強弱で選別され,雇用能力の高い受給者に有利な雇用サービスが展開されることになった.その結果雇用能力の低い受給者は,公的扶助の受給を保持するためにWEPの隷属的な活動に従事し就労義務を果たすべくプログラムに滞留し (★21),職に就けず隷属的な活動に従事することを拒否する受給者は受給資格を剥奪され公的扶助から排除されるようになったのであった.

 一般的に政策評価を行う際には,第一に,政策が掲げた目標を達成しているかどうか,第二に,政策が取り組まなければならない社会問題を解決しているかどうか,に留意しなければならない.確かに同市のワークフェアプログラムは受給者数の削減や経費の節減という観点からは成功したといえる.しかし,ワークフェアの政策目標である福祉受給者の「自立」という観点に沿って評価するならば,プログラムを通して福祉受給者がどのような職に就けるのかが重要となる.公的扶助の申請者/受給者は就労経験や稼働能力に乏しいことが想定されるが,教育・職業訓練プログラムではなく即座の就労に重点を置くSAPやESPを通して斡旋される職とは,低賃金で不安定な労働であることが予想される.ましてやWEPは無報酬の隷属的な活動に受給者を従事させるものであった.したがってワークフェアは、第一に、福祉受給者の「自立」という観点から再評価されなければならないであろう.第二に、雇用能力の低い受給者をプログラムに滞留させる、あるいは公的扶助から排除する効果をもたらすので、公的扶助の背後にある失業・貧困問題の解決には寄与していないと結論付けることができる.

 受給者に割り当てられるのは不景気時に解雇される可能性の高い不安定な労働であることが予想されるにもかかわらず,受給者は就労を継続するよう監督されるため,ワークフェア政策は受給者に負荷をかける施策であり,それは景気の後退時に顕著となる.アメリカ労働市場の特徴として「労働力の流動性」が挙げられるが,公的扶助を受給しながら就労または「就労関連の活動」に従事する「ワークフェア労働者」は最も流動的な労働力である.しかし,「ワークフェア労働者」は,ニューヨーク市の法律のもとでは自身の意思に基づいて働いていない,すなわち法で要請される伝統的な使用者―雇用者の関係が存在しないとみなされ,団結権や団体交渉権が認められていない(O'Connell 1999).ワークフェアプログラム参加者の法的地位を問い直す必要があるが、プログラムによって受給者がどのような職に就くことができたのかについての分析とあわせて、今後の課題としたい.


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[注]

★1 現市長であるブルームバーグは,2006年の同市の受給者数について,ジョンソン政権のもとで「貧困との戦い」が取り組まれた1964年以来の歴史的な低水準として報告している.同市の受給者数の推移については,City of New York Human Resources Administration(2006)を参照.

★2 ジュリアーニの後に2002年から市長に就いたブルームバーグも基本的にはジュリアーニの福祉政策を継続している(Savas 2005b: 11-4).そのため本稿では,ジュリアーニの政権期間(1994年〜2001年)におけるワークフェア政策を分析対象とする.ジュリアーニ政権の福祉改革を包括的に分析したものとして,Nightingale et al.(2002),Savas ed.(2005),邦語文献として根岸(2006)を参照.

★3 ワークフェアには、教育・職業訓練を重視する人的資源モデルと即座の就労斡旋を重視するワークファーストモデルがある。ブッシュ大統領はワークファーストモデルの典型例である同市のワークフェアプログラムに多大な感銘を受けて全米のモデルになることを望んだ(Davis et al. 2003: 28-9).前者から後者のモデルへの転換をカリフォルニア州の事例をもとに分析したものとして,小林(2006)を参照.

★4 1996年福祉改革法については,U. S. House of Representatives, Committee on Ways and Means(1998),邦語文献として尾澤(2003),根岸(2006: 143-52)などを参照.

★5 包括的補助金の詳細は,Chernick(1998),根岸(2006: 154-8)を参照.包括的補助金は,受給者数が減少した場合,州政府に対して独自の就労促進・支援プログラムのための資金的な裏付けを与えるものである.だが景気後退期などに受給者数が増加した場合,州政府が支出抑制や削減を行うことが懸念されている.

★6 他の主な公的扶助として,低所得の障害者と高齢者への現金扶助である補足的保障所得(Supplemental Security Income)や,医療扶助のメディケイド,食料扶助のフードスタンプなどがある.本稿では現金扶助と就労支援プログラムの結合に焦点をあてるため,現金扶助の中核であるTANFとGAについて考察する.以下公的扶助(福祉)とはTANFとGAを指す.

★7 ニューヨーク州の公的扶助の詳細は,New York State, Office of Temporary and Disability Assistance(2004)を参照.

★8 ニューヨーク市の福祉政策についての歴史的変遷を踏まえたうえで,ジュリアーニ政権下の福祉政策の変容を,受給者が建設的な生活を営むよう監督的立場から行動を管理する「新しいパターナリズム」として位置づけ検討した西山(2004)を参照.

★9 HRAの権限強化に伴い就労促進プログラムには包括的補助金の他にも連邦議会から支給される「ウェルフェア・トゥ・ワーク(Welfare-to-Work: WtW)」補助金,連邦政府の労働省から支給される競争的WtW補助金など複数の補助金が用いられた(Nightingale 2005: 23-4).実際同市から委託を受けた民間団体は受給者以外に低所得者に対しても就労促進プログラムを提供していたが,本稿では分析対象を公的扶助受給者に限定する.他方で2000年に開始されたSAPとESPに先立ってWEPは前期ジュリアーニ政権期から実施されていたが,本章では時系列ではなく申請者がたどるSAP,ESP,WEPの順に節を構成した.

★10 申請過程の説明には,Nightingale et al.(2002: 27-82),Nightingale(2005: 25-33)を参照.

★11 ジョブセンターにおいて申請者には受給資格についての情報が十分に与えられず最低限の求職支援のみが与えられて不適切に追い払われたことが非難されていた.大半の公聴会では,市の決定が覆され申請者には公的扶助の受給資格があることが明らかにされた(Chernick and Reimers 2004: 5-6).

★12 以前は就労可能でないと判断され就労要請を免除されていた高齢者や病者の介護に従事する者,身体/精神障害者も,1999年以降それぞれの特別なニーズに対応した支援を提供する特別プログラムによって就労を促進されるようになった.

★13 受給資格証明審査は1994年に開始され,厳格な受給資格審査と指紋押捺,家庭訪問を含む.同審査はHRAの専門家によって厳格に行われ,当初はSNAが対象であったが後にFAにまで拡大された.申請者や受給者は受給資格証明審査調査員の家庭訪問によって受給要件を満たしているかどうかを監視された.同審査の詳細については,Clark(2005a)を参照.

★14 WEPの概要については,Clark(2005b),Nightingale(2005: 37-40)を参照.

★15 グラフィティと呼ばれる「落書き」はニューヨーク市で生まれ世界各地に広がった.「落書き」を公共物汚損と定義し消し去ろうとした同市とグラフィティを行った若者の闘争史について,高祖(2003)を参照.

★16 ジュリアーニ政権期間のWEPへの総参加者数は約33万人であり,公的扶助に対する租税支出はWEPによって1995年6月の9.84億ドルから2000年6月の4.31億ドルまで約5.53億ドル節減された(Savas 2005a: 300).

★17 WEPが参加者を雇用に結び付けているかどうかをTANF離脱者の調査をもとに検討したものとして,根岸(2006: 179-89)を参照.またESPやWEPへの参加要請に従事しない受給者に対する制裁は,FAの場合で,初回は受給者が参加要請に従事するまでの期間,次回が最低3ヶ月分,以後が最低6ヶ月分の給付金の停止であり,扶養児童のいないSNAの場合は,初回が最低3ヶ月分,次回が最低6か月分の給付金の停止であった.FAでプログラム参加者のうち制裁過程にいる者の割合は,1996年11月から1999年4月にかけて16%(17,727人)から24%(37,911人)に,1999年4月から2001年11月にかけては20%から51%にまで増加した.他方でSNAの同割合は1996年11月から2001年11月にかけて13%(10,386人)から17%(6,505人)に増加した(Besharov and Germanis 2005: 164-5).

★18 この点について代表的事例であるウィスコンシン州の福祉改革プログラム(Wisconsin Works)を中心に検討したものとして,木下(2007)を参照.

★19 業績ベースの契約についての説明は,Barnow and Trutko(2005: 231-3)を参照.

★20 ターナーは犯罪削減の効率化に寄与した警察局のCompStatをモデルにしてJobStatを設立した.JobStatを中心とする情報管理システムについては,Sherwood(2005)を参照.

★21 WEPによって公的雇用に割り当てられた受給者にとって民間セクターにおける職は十分に存在しないので,受給者は決してプログラムから脱却することはないという批判が市職員の労働組合からなされた(Clark 2005b: 175).


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[文献]

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◆Besharov, Douglas J. and Peter Germanis, 2005, "Achieving 'Full Engagement'," Savas ed., Managing Welfare Reform in New York City, Lanham: Rowman & Littlefield, 146-70.
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◆City of New York Human Resources Administration, 2006, "Public Assistance Recipients in NYC 1955-2006"(http://nyc.gov/html/om/pdf/public_assistance_caseloads_mar06.pdf, June 22, 2006).
◆Clark, James, 2005a, "Protecting against Welfare Fraud," Savas ed., Managing Welfare Reform in New York City, Lanham: Rowman & Littlefield, 85-104.
◆Clark, James, 2005b, "Overcoming Opposition and Giving Work Experience to Welfare Applicants and Recipients," Savas ed., Managing Welfare Reform in New York City, Lanham: Rowman & Littlefield, 171-209.
◆Davis, Dana-Ain, Ana Aparicio, Audrey Jacobs, Akemi Kochiyama, Leith Mullings, Andrea Queeley, and Beverly Thompson, 2003, "Working It Off: Welfare Reform, Workfare, and Work Experience Programs in New York City," Souls, 5(2): 22-41.
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◆木下武徳,2007,『アメリカ福祉の民間化』日本経済評論社.
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◆U. S. House of Representatives, Committee on Ways and Means, 1998, 1998 Green Book.



[正誤表]

160ページ、注3の2行目
「ワークファースト・モデルである」 → 「ワークファースト・モデルがある」



[言及・紹介]

◆ 20081130 萩原康生 「2007年度学会回顧と展望 国際部門」『社会福祉学』49(3): 232-42.

◆ 20080321 木下武徳 「ロサンゼルス福祉改革における民間化の特質――GAINケースマネジメントを中心に」『社会科学研究』59(5-6): 81-112.


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◇English

[Title] Workfare Policies in New York City: The Effect of Employment Support Programs on Welfare Recipients

[Name] KOBAYASHI, Hayato

[Abstract]

 Faced by huge welfare costs, the Giuliani administration in N.Y.C. started welfare reforms in 1994 to cut the number of welfare recipients and reduce welfare dependency by improving recipients' self-sufficiency. Although Giuliani's welfare reforms did drastically reduce the number of welfare recipients, this paper discloses that they did not succeed in helping recipients become self-sufficient.

 Giuliani outsourced the employment support programs to the private sector or other government agencies through performance-based contracting. He also introduced an information management system in order to keep constant track of the condition of each recipient and the staff performance of each organization. The main component of the welfare reforms was the employment support programs: Skills and Placement (SAP), Employment Services Placement (ESP) and the Work Experience Program (WEP). These programs were designed to make the recipients become self-sufficient. SAP required public assistance applicants to look for work, and ESP encouraged the recipients to get jobs. When the recipients could not get jobs, they had to participate in WEP.

 The reforms, in fact, succeeded in reducing the number of welfare recipients by forcing them to participate in the employment support programs. In effect, SAP made it difficult for the eligible people to apply for public assistance. As for ESP, it was advantageous for more employable recipients, but failed to help most recipients, who had few skills, to find jobs. The work conditions of those who ended up in WEP were terrible, so that many refused to participate and were disqualified from receiving benefits. Furthermore, those who stayed with the program, despite the conditions, exhausted their time-limited benefits - without getting any skills or education. Thus, although the welfare reforms led to a reduction of the number of recipients, they did not succeed in helping the recipients become self-sufficient.


[Keywords] Workfare, New York, Performance-Based Contracting, Information Management System, Giuliani



UP:20070609 REV:0623, 20081106, 20130507
ニューヨークのワークフェア  ◇ニューヨーク市のワークフェア政策文献表   

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