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ワークフェアをめぐる建前と本音

小林 勇人 20071101
『現代思想』(特集:偽装の時代)35(14): 206.

English Page http://www.arsvi.com/2000/0704kh-e.htm


*以下、全文掲載。


 ワークフェアとは何か? 日本では失業者に対するワークのフェアfairとして普及しているようだ。あたかも、福祉などは存在せず就労こそが重要なのだから就労に関わる催しは良しとして、すんなり「合意」が形成されているかのように。

 workfareとは、workとwelfareの合成語であり、アメリカでは雇用可能な福祉(公的扶助)受給者に労働を義務付ける政策を意味する。その政策目標は、受給者の就労を通した自立/福祉依存からの脱却、である。この建前の背後には、失業・貧困問題の個人への帰責化によって、福祉費用を削減したいという本音が見え隠れする。ワークフェアは、福祉に対置される改革の言葉なのであり、労働の義務を持ち込むことによって、福祉費用の削減にとって最大の障壁である福祉権a right to welfare(に関わる運動)を封じ込める動きとして捉えることができる。

 ワークフェア政策は、発祥国であり主導国でもあるアメリカから、イギリスを中心にして各国に、地方分権/ネオリベラリズムの進展とともに普及している。日本でも〇一年に石原都政のもとでジュリアーニの行政改革について作成された報告書の中で注目され、〇二年以降は国の自立支援の方針が地方の政策運用を規定するにようになった。

 この四十年余りワークフェアは、受給者の就労を通した自立という目標の達成には失敗してきた。しかし、一部の雇用能力の高い受給者の就労、福祉費用や受給者数の削減に成功したため、肯定的に評価され政策移転される一方で、移転後の就労支援が当初の目標に失敗すればする程、就労義務を強化する改革推進の根拠となったのだ。ワークフェアは、たとえ就労支援の建前が支持され導入されたとしても、労働を強制するものへと転化していくのであり、就労支援が必要な状況、すなわち失業・貧困が別の視角から問われなければならない。失業・貧困が我々の問題であるからこそ、福祉/所得保障が権利として要求されてきたのだから。


(こばやし はやと・社会政策学/福祉社会学)


UP:20071105 REV:20091204
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